老後2000万円問題の本質は、大半の国民に「死」を突きつけたこと

話題となっている老後2000万円問題。多くの人が衝撃を受けている。麻生大臣の「老後には2000万円が不足」という言葉は、今まではっきりとした数字がなく、ぼんやりとしかイメージできなかった老後不安を、より現実的なものとして明示した。TVや新聞雑誌はこぞって取り上げ、政治家たちは討論し、選挙の争点の一つにもしようとした。

しかし、メディアで目にする老後2000万円問題は、どうにも焦点がずれている気がしないだろうか?

  • 年金財源が足りていないのはわかっていたこと。
  • 投資をして、年金の不足分を補おう。
  • 若いうちから積立をして、将来に備えよう。 等々

違うのだ。

なぜ違うのか?
答えは簡単で、これらの対策がほとんどの国民には「できない」からである。また、メディアで解説をするアナウンサーや知識人たちは、そもそも裕福な人たちである。麻生大臣ほどでないにせよ、庶民の金銭感覚からはかけ離れてしまっており、その人たちが宣う意見は、どれも結局ずれている。うがった見方かもしれないが、所詮彼らには関係ない事象なのかもしれない。

平均年収以下ならば、実はすでに死んでいる

国税庁の「平成29年分 民間給与実態統計調査」によると、給与所得者の平均年収は432万円。だが、実はこの年収ならば、経済的にはすでに破綻しているのである。悲痛な叫びを代弁した記事も見受けられるが、「老後のために2000万円貯めろと言われても無理だ」というのが多くの人の率直な感想ではないだろうか。

しかし、実情はもっと深刻だ。例えばこの記事では、毎月の給与から天引きされる社会保険料(年金、健康保険等)や税金(所得税・住民税等)が加味されていないし、子育て費用は養育費のみのようで、学費を中心とした教育費が含まれていない。さらに、上記国税庁の資料によると、日本人の年収で最も多いのは、300万円台である。給与所得者4945万人のうち、最多の867万人(17.5%)が年収300万円台であり、次いで多いのは年収200万円台で781万人(15.8%)。平均年収にも届かない年収400万円以下の人は、実に給与所得者全体の55.5%である。順を追って見ていくが、これでは生きていく上であまりにも収入が足りないのだ。

そこで、老後2000万円問題が国民の不安を増大させた今、多くの一般的な人は、生涯を通じて一体いくらの収入を得ることができ、いくらの支出を見込めば良いのだろうか?より現実に即して検証してみよう。

一生の手取り額はいくらか?

一生の手取り額はいくらか?

再度、国税庁の「平成29年分 民間給与実態統計調査」によると、日本人の平均年収は432万円である。年齢や学歴に応じて年収は増減するが、まずはわかりやすく、40年間働き、その間ずっとこの平均年収を獲得できたと仮定しよう。

社会保険料と税金

ここから、社会保険料となる厚生年金、健康保険、雇用保険の金額を引く。また現在は40歳以上になると介護保険料も徴収される。大まかに言うと、天引きされる社会保険料の合計額は、年収の約14.4%~15.2%になる。社会保険料が今後下がることは考えづらいので、ここでは年収の15%を社会保険料として見積っておこう。

よって1年間の社会保険料は、

  • 432万円×15%=64.8万円

となる。

続いて所得税と住民税を算出しよう。所得税は、人によって支払った医療費や保険料、扶養家族等に応じた各種控除があり、住民税は厳密には各自治体で税額が異なる。例えば夕張市や横浜市は住民税が高く、名古屋市などは安いが、その差額は年間で1万円ほど。そこでここでは、所得税については全ての人に適用される社会保険料控除と基礎控除のみを考慮し、住民税については平均的な均等割5000円、所得割は10%で計算してみよう。

この場合、年収432万円の人の所得税と住民税の年額は、

  • 所得税 約9.6万円(復興特別税込み)
  • 住民税 約19.6万円
  • 合計 約29.2万円

となる。

平均年収の人の手取り額は1年で約338万円

つまり、社会保険料と税金合わせて、64.8万円+29.2万円=約94万円が、年収から引かれることになる。よって、

  • 432万円-94万円=338万円

現在の平均年収とされる年収432万円の人の手取り額は、年額約338万円である。(社会人1年目は住民税がかなり安いが、長い年月で考えた場合、大差にはならない)

この年収で40年間働くとすると、

  • 338万円×40年=1億3520万円

また、子供がいて扶養親族に該当する場合、16歳~18歳までは一般扶養控除(3年間)、19歳から22歳までは特定扶養控除(4年間)が受けられるので、その時期の所得税と住民税は安くなる。子供を2人育てるとするなら、おおよそこの期間で減額される所得税と住民税の総額は約100万円となるので、これを加味すると1億3620万円になる。

退職金

給料以外のまとまった収入と思われる退職金についても考えてみよう。厚生労働省の「平成30年就労条件総合調査」を参照すると、大卒の社員の場合、退職金はおおよそ2000万円ほどとわかる。ただし、これは勤続20年以上で45歳以上の従業員を対象としており、該当する従業員がいる企業は、そもそも退職金制度がある企業全体の26%程度しかない。転職が当たり前となり、入社から定年まで一つの会社で勤め上げるということが減ってきた現代では、そもそもこの前提が当てはまらない人が多いのだ。さらに、高卒の社員は大卒社員よりも退職金が300万円以上低く、そもそも退職金が支給されない企業も2割程度存在している。

また、日本の大多数を占める中小企業の退職金はもっと安い。東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情(平成30年版)」にあるモデル退職金を見てみると、中小企業の退職金は1100万円~1200万円程度しかない(退職年金もある中小企業であれば、退職一時金と合わせ、合計1500万程度まで見込めるが、中小企業の約75%は、退職一時金のみの支給である)。そして、退職金にももちろん税金がかかるので、手取り額は減少する。

このように考えると、退職金を受け取れるとしても、おおよそ1000万程度と見積もっておくのが現実的だろう。

平均年収の場合、一生の手取り額は約1億4600万円

よって、平均年収の人の一生の手取り額は、退職金込みで

  • 1億3620万円+1000万円=1億4620万円

となる。

人生における大きな支出と老後2000万円

人生における大きな支出と老後2000万円

一生分の手取り額がわかったところで、今度は支出額を計算していこう。人生における最も大きな支出は、やはり子育て費用と住宅費である。厚生労働省の発表によれば、2018年の日本の出生率は1.42となり、生まれた子供の数は過去最低となった。将来を担う子供たちの減少は、国力の低下だけでなく、年金や医療といった社会保障制度の破綻も招きかねない。深刻な少子化を食い止めたい政府は、合計出生率を1.8まで上げたいとしている。

そこでここでは、先ほど収入を計算した時と同様、子供が2人生まれて子育てをし、住宅を購入することを前提として、さらに年金では不足とされる老後の2000万円を確保することを考えてみよう。

子育てに必要な費用

子育ての費用とは、大きくは教育費と養育費に分けられる。教育費とは、幼稚園や大学にいたるまでの学費、給食費、部活代や塾代などが該当する。養育費は、こういった学費以外の費用、つまり、出産や育児の費用、子どもの食費や被服費といった生活用品代、病院代、おこづかいなどが含まれる。

まず教育費を計算していこう。幼稚園から高校までの教育費については、文部科学省の「平成28年度子供の学習費調査」を参考にする。これによると、幼稚園から高校まで公立に通った場合の教育費総額は、約542万円である。これがもし全て私立に通った場合は、1771万円と、実に1000万円以上の差が生じてくる。

公立私立
幼稚園(3年間)701,841円
(233,947円)
1,447,176円
(482,392円)
小学校(6年間)1,933,860円
(322,310円)
9,169,422円
(1,528,237円)
中学校(3年間)1,435,662円
(478,554円)
3,980,799円
(1,326,933円)
高校(3年間)1,352,586円
(450,862円)
3,120,504円
(1,040,168円)
合計5,423,949円17,717,901円
文部科学省「平成28年度子供の学習費調査」より
(カッコ内は1年間の学習費総額)

また、この資料では大学進学・在学中の教育費が掲載されていないため、大学の教育費については、日本政策金融公庫の「(平成29年度)教育費負担の実態調査結果」(※)を参照する。ここから計算すると、国公立大学に進学した場合の教育費は4年間で約539万円。同じく文系の私立大学に進学した場合は約731万円、理系の私立大学に進学した場合は約827万円であることがわかる。もし医学部であれば、より高額な入学金や授業料に加え、在学期間も6年となるため、ここでは除外しておく。

国公立大私立大文系私立大理系
入学費用80.1万円90.4万円85.5万円
4年間の
在学費用
459.2万円
(114.8万円)
640.4万円
(160.1万円)
741.2万円
(185.3万円)
合計539.3万円730.8万円826.7万円
日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査結果」より
(カッコ内は1年間の在学費)

(※)この資料では入学費用として、受験費用(受験料や旅費交通費、宿泊費)と学校納付金、入学しなかった学校への納付金もカウントしており、調査対象は4,700人である。高校での教育費が文部科学省のデータと異なるのはそのためである。ただ、文部科学省資料における調査対象は29,060人と、より多いため、高校の教育費については、文部科学省の資料を元に計算してある。

以上から、幼稚園から大学卒業までの教育費は、

幼稚園から高校まで全て公立に通い、大学も国公立大に進学の場合(最安)

  • 542万円+539万円=約1081万円

仮に幼稚園から高校まで全て私立に通い、大学も私立大という場合は、

  • 1771万円+731万円=2502万円(文系)
  • 1771万円+827万円=2598万円(理系)

となり、実に1500万円近い差が出てくることになる。

ここでは、教育費が最も安くなる幼稚園から高校まですべて公立で、大学も国公立と想定しよう。

養育費については、少し古くなるが、AIG損害保険株式会社(旧AIU保険)の2005年版「現代子育て経済考」を参照すると、出産から大学卒業までの総費用は約1640万円となっている。

出産・育児費用約91万円
食費約671万円
被服費約141万円
医療費、理容費約193万円
おこづかい約451万円
私的所有物約93万円
合計約1640万円
AIG損害保険株式会社(旧AIU保険)
2005年版「現代子育て経済考」より

よって、子供一人を大学卒業まで育てるのにかかる費用の総額は、一番安くても、

  • 1081万円+1640万円=2721万円

となる。もし、どこかのタイミングで私立校に通わせることがあれば、一気に3000万を超えることを覚悟しなくてはならない。

住宅費の計算

続いて、住宅費を計算していこう。マンションか一戸建てか、新築か中古か、また、首都圏か地方かなど、様々な要因で変化するのが住宅費なので、一概には計算しづらいが、ここでは住宅金融支援機構の「フラット35利用者調査 2018年度データ」から住宅取得の際の所要資金を算出してみよう。

新築
マンション
土地付き
注文住宅
建売住宅注文住宅
のみ
中古
マンション
中古戸建
全国平均4437万円4113万円3442万円3395万円2983万円2473万円
首都圏4941万円4775万円3834万円3694万円3235万円2991万円
近畿圏4107万円4227万円3259万円3504万円2478万円2198万円
東海4017万円4107万円2976万円3450万円2023万円2132万円
その他3466万円3762万円2794万円3228万円2256万円2019万円
住宅金融支援機構
「フラット35利用者調査 2018年度データ」より

少し乱暴だが、全国平均のデータをもとに、新築マンションから中古戸建までの平均を出すと、約3500万円となる。首都圏は突出して高額なので、首都圏での住宅取得を考える場合は、資金力がどうしても必要になってくる。そして、住宅は購入資金だけでなく、購入後には固定資産税や都市計画税といった税金の支払い、戸建ての場合は修繕費、マンションなら修繕積立金や管理費が必要になる。火災保険などの保険代も加算しておくべきだろう。

また、上記はフラット35利用者のデータだが、ローンも借入額や種別(固定金利か変動金利か等)によって、返済額が変わる。長期にわたって居住し、支払いも続く住宅だからこそ、それに伴う各種出費やローン返済を考えると、できれば住宅購入額に加え、1000万円程度の資金を見積もっておきたい。住宅ローン控除を活用し、仮に200万円ほど税金が安くなるとしても、住宅費としては、合計で約4300万円はかかると考えておくのが良いだろう。 そして最後に、物議となった老後に必要な2000万円を加える。

大きな支出の総額は約1億1700万円

以上から、子供を2人育てるのに必要な金額が2721万円×2=5442万円、住宅費が4300万円、そして老後の2000万円。

合計は、

  • 5442万円+4300万円+2000万円=1億1742万円

約1億1700万円。これが子供2人を育て、住宅を購入し、老後に必要とされる金額を貯蓄するのにかかる金額である。

日々の生活費はいくらになるのか?

ここまでで、生涯で入手できる手取り額と、人生における大きな支出と老後の2000万円の確保に必要な金額はわかった。この手取り額からこれら大きな支出を引いた金額が、その他様々な日常生活費用に充てることができる金額となる。よって、

  • 1億4620万円-1億1742万円=2878万円

2878万円が生涯で日々の生活に使える金額となる。

引退後は年金と貯蓄した2000万でまかなうとして、社会人人生の40年の間にこの2878万円を生活費とするなら、

  • 2878万円÷40年=約72万円

1年で使える生活費は約72万円。月額ベースで考えると、

  • 72万円÷12=6万円

毎月6万円で全てをやりくりしなくてはならない

当然この6万円から、様々な支出を支払っていく。生活上必須となる食費や水道光熱費もここから捻出する。ざっと列挙してみよう。

  • 食費
  • 水道光熱費
  • 通信費(携帯代やインターネット使用料等)
  • 被服費
  • その他各生活用消耗品代
  • 医療費
  • 理容費
  • 遊興費(外食や飲み代、こづかい)
  • 車両維持費(車を持つなら)
  • 保険料(保険に入るなら) 等々

さて、どうだろう?

子供の食費や被服費、医療費などは、子育て費用として計上してあるので減算して構わないが、何をどうやっても足りないのだ。ほとんどの平均的な国民は、すでに経済的に破綻しているのである。

もちろん、これは稼ぎ手が一人の場合の計算だから、いわば夫がサラリーマンで妻が専業主婦というモデルである。内閣府の「男女共同参画白書(概要版) 平成30年版」によると、平成29年時点で、共働き世帯が1188万、専業主婦世帯数が641万と、共働き世帯の方が圧倒的に多いことがわかる。これまでの計算でも明らかになったとおり、もはや稼ぎ手が一人ではどうしようもない。共働き世帯は増えるしかないのだ。主たる稼ぎ手が夫とするならば、今の時代、あとは妻がどれだけ稼ぐかによって、日常の様々な支出に対する余力が変わることになる。

妻は一体いくら稼げば良いのか?

では、実際あといくらあれば、日常に支障を来たさない程度の生活が送れるのだろうか?総務省統計局による2018年の「家計調査報告(家計収支編)年平均結果の概要」を参照すると、二人以上の世帯の消費支出は1ヶ月あたり平均287315円となっている。

これには住居費(16920円)や、子育て費用に計上した教育費(11788円)、子供の食費も含まれていると考えられるため、実際にはこれより少なくて良いだろう。とはいえ、急な出費への備えや老後2000万円以外の貯蓄も欲しいところである。よって、毎月25~6万円程度は確保すると考えてみよう。

これまでの計算より、夫の収入から毎月の生活費に充てられる金額が実質6万円とするならば、妻は毎月約20万円の手取り額を稼がなくてはならない。毎月の手取り額が20万円になるには、年収として300万円程度必要となる。

妻の年収300万円は、実は簡単ではない

年収300万円と言われると、それほど苦労しないように思えるかもしれないが、実際はそんなに簡単ではない。女性の平均年収は男性よりも低く、冒頭で紹介した国税庁の「平成29年分 民間給与実態統計調査」によれば、女性の平均年収は約287万円である。さらに、出産や子育ての時期には休職や退職、時短勤務にする等が考えられ、収入が減ることになる。この減収分を取り返そうとすれば、当然300万円よりもはるかに多い年収が必要である。

男性女性
正規2253万人1035万人
非正規350万5千人783万2千人
合計2935万7千人2009万4千人
男女の給与所得者における正規・非正規雇用者数
国税庁「平成29年分 民間給与実態統計調査」より

また、同資料にあるとおり、女性は正社員が1035万人に対し、派遣社員やパートなどの非正規社員が783万人となっており、男性と比べると非正規社員率は圧倒的に高い。しかも給与所得者のうち、女性の場合は最も多い年収は100万円台である。これでは、妻が不足分を稼ぐというのは多くの人にとって現実的ではない。

より過酷な現実

より過酷な現実

今までの計算は、もちろん全ての人に当てはまるものではないだろう。上手く収入や支出をコントロールできれば何とかなると思った方もいるかもしれない。

だが、あえて言いたい。それでもまだ大半の国民はすでに死んでいる。

年収の中央値での計算

まず、これまでの試算は全て日本人の平均年収である約432万円をもとにしてきたが、冒頭で触れたとおり、多くの国民の年収はもっと低いのである。実際、日本人の平均年収が432万円と言われて、案外高いなと思った方もいらっしゃるだろう。

普通の人には実感しづらいことと思うが、実は日本の富裕層は増えており、この年収の高い層が平均年収を押し上げているのである。野村総研のニュースリリースを見ても、富裕層が確実に増加していることがわかる。そして国税庁の「平成29年分 民間給与実態統計調査」を参照しても、年収1000万以上の人は前年より14万人近く増えているのだ。簡単な話で、多くの年収を手にできる層が増えれば、平均値は上振れしてしまう。

そこで、平均年収ではなく、より多くの国民の実情に近い、年収の中央値で考えてみよう。

年収人数(千人)割合(%)
100万円以下41528.4
100万円 超~200万円以下669913.5
200万円 超~ 300万円以下781215.8
300万円 超~ 400万円以下866617.5
400万円 超~ 500万円以下730814.8
500万円 超~ 600万円以下497810.1
600万円 超~ 700万円以下31276.3
700万円 超~ 800万円以下21374.3
800万円 超~ 900万円以下14252.9
900万円 超~ 1000万円以下9261.9
1000万円超22204.5
給与階級別給与所得者数・構成比
国税庁「平成29年分 民間給与実態統計調査」より

ここから中央値を求めると、年収の中央値は約370万円であることがわかる。では、370万円を基準として、前述同様の計算をしてみよう。

年収370万円の場合、社会保障費は年額約55.5万円。所得税は年額7.6万円、住民税は年額15.6万円となる。

よって、手取り額は、

  • 370万-(55.5万+7.6万+15.6万)=291.3万円

年収370万円の人の実際の手取りは、年額約291万円である。

一生分の手取り額を計算すると、

  • 291.3万円×40年=1億1652万円

同じく、子供の一般扶養控除(3年間)、特定扶養控除(4年間)時期の所得税と住民税の減額分を計算する。おおよそ、この期間で減額される所得税と住民税の総額は、子供が2人ならば約100万円となるので、これを加味すると1億1754万円

退職金も同じく1000万円入手できるとするなら、生涯の手取り額は約1億2754万円となる。

ここから同様に、子供2人を産み育てる資金、住宅購入、老後の2000万円の合計である1億1942万円を引くと、

  • 1億2754万円-1億1942万円=812万円

計算しなくても良いと思うが、40年間の生活費が800万円程度となってしまう。
・・・もう言わなくてもおわかりだろう。すでに、死んでいるのだ。

非正規社員ならなお年収は低い

悲惨な現実はまだまだ続く。これでも上記は正社員を含めた全体の中央値なので、非正規雇用者(派遣社員、契約社員、パート・アルバイト等)に限って見てみると、年収はさらに低くなる。同じく国税庁の「平成29年分 民間給与実態統計調査」によれば、1年を通して勤務した非正規社員の平均年収は175万円である。

男性女性全体
229万円151万円175万円
非正規雇用者の平均年収
国税庁「平成29年分 民間給与実態統計調査」より

また、総務省が公開する最新の「労働力調査(基本集計) 2019年(令和元年)6月分」によると、非正規の雇用者は2100万人を超え、雇用者全体の35%以上を占めており、年々増加の一途をたどっている。彼らは年収面だけでなく、社会保障面でも正社員ほどの充実が保証されないことも多い。

国もようやく支援に乗り出そうとしているロスジェネ世代、いわゆる就職氷河期の世代は、内閣府の「就職氷河期世代支援プログラム関連参考資料」によると、約1689万人も存在している。このうちの約22%にあたる371万人が非正規雇用者、さらに約13%にあたる219万人は職に就くことすらできていないのである。

そもそも老後資金は2000万円で足りるのか?

そもそも老後資金は2000万円で足りるのか?

ここで前提自体を疑問視するのもどうかと思うが、このように見てくると、そもそも老後資金は2000万円で足りるのかという疑問が出てくる。現役時代は何とかやりくりして乗り切り、あとは年金をベースに生活しようと思っても、そうはいかない現実が待っている。

現在受給できる年金額のモデルケースとして目にする毎月約22万円という数字。これなら贅沢さえしなければ生活できると思う方も多いだろう。しかし、厚生労働省の「平成 31 年度の年金額改定についてお知らせ」を見ればわかるが、毎月約22万円受給できるのは、あくまで厚生年金の加入者であり、かつ、夫が40年間就業し、その間の年収がずっと約514万円で、妻は専業主婦という条件での受給額である。今まで見てきた様々な前提とはあまりにかけ離れているのだ。

国民年金だけなら絶望的に不足

フリーランスや自営業者など、厚生年金に加入していない人たちは、そもそも国民年金のみの加入である。国民年金だけの場合、毎月の支給額は約6.5万円。年額78万円しかないのだ。これでは老後資金の2000万円を貯蓄できていたとしても、退職後の生活資金としては、絶望的に足りない。

自分で事業を行い、成功して老後資金も十分稼げた人ならそれでも良いだろう。しかし問題は、様々な事情でパートやアルバイトとなり、厚生年金には加入できず、国民年金のみを支払い続けた人の場合である。先ほどの就職氷河期世代の例を見れば、職に就いていない人も一定数おり、年金自体払っていなかった人もいるだろう。事実、厚生労働省の「平成 31 年 4 月末現在 国民年金保険料の月次納付率」を参照すると、実に約3割の人は国民年金を収めていない

生活保護はあてにできない

年金では十分な生活ができないなら、生活保護を受ければいいという意見を目にすることがあるが、これは止めた方がいい。厚生労働省の「生活保護制度の概要等について」を見ると、平成31年度の生活保護制度の予算は約3.8兆円。対して、年金の予算は、基礎年金と厚生年金だけで74兆円もある。多くの人が生活に困窮し、生活保護に殺到した場合、年金制度より先に破綻するのは目に見えている。

現在の社会保障制度は維持されるのか?

このような現状では、そもそも現在の年金や医療といった社会保障制度自体、維持できるのかという不安が当然のように出てくる。

凄まじいスピードで少子高齢化が進む日本では、社会保障制度の財源を収める側となる若い世代は減り、受け取る側は増えていく。政府が年金の受給年齢を上げようとするのは、そうでもしない限り、もうやりくりができないからだ。今後、年金の受給額が少なくなっていくことに多くの国民が怒りをあらわにしているが、老人が増え、若者が減る社会になることが避けられない以上、支給する金額を減らすしかない。

経済状況が良くなり、社会保障の財源が潤うシナリオを想像したくても、労働人口が減少し、競争力も弱くなる日本では、今後多くの人の年収が爆発的に増えるとは考えづらい。収入が伸びない以上、多額の社会保険料を徴収することはできないので、社会保障制度の財源が大きく潤うこともない。また、すでに多く存在する非正規雇用などで年収が低い層は、社会保険料の納付額も低いのである。出生率が上向くことにつながる子供を2人生むという選択も、多くの人にとって困難になるだろう。するとますます少子化は止まらず、ただでさえ苦しい現役世代の社会保障費の負担を増やすしかなくなってくる。完全に負のスパイラルである。

今すぐ破綻するということはないにせよ、これからもずっと現在の社会保障制度が維持できるとは到底言えるわけがない。今後、老後に必要な資金は、贅沢など一切しなくても、2000万円どころではないだろう。

多くの国民はすでに死んでいる

大まかな計算だけでも、多くの国民には子育てや住居の購入、安定した老後というのは、すでに達成し得ない、無理なプランであることがわかる。

これまでの計算ほど悲観的にはならないと信じたい人もいるだろう。でももしどこかの費用が高額になったら?病気やケガのために収入が減ったら?…あっという間に破綻してしまうのは目に見えている。 もはや普通の人が「頑張れば何とかなる」という次元ではないのだ。

老後2000万円問題の本質とは、大半の国民に死を突きつけたことに他ならないのである。