新型コロナウイルスの影響により、航空機利用は内外ともに激減し、ANAとJALの赤字が手に負えないレベルになっている。ANAは5300億円、JALは2700億円。もちろん過去最大である。
売上のほとんどが消失し、莫大な費用だけがかかり続ける
コロナの猛威が直撃した第一四半期、JALとANAの利用者の激減は目を覆うほどだ。前年同月と比べると、2020年5月の利用者の減少率はJAL、ANAとも9割以上。渡航が禁止されたため、国際線に至っては、JALが99%減少、ANA97%減少と、もはや前年と比べるとほとんど売上が無いに等しく見える状態である。
JAL | ANA | |
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国際線利用者数 | 8,300人 | 2万4,000人 |
前年同月比(%) | -99.0% | -97.1% |
国内線利用者数 | 24万5,000人 | 20万4,000人 |
前年同月比(%) | -92.4% | -94.7% |
現在は徐々に再開されつつあるとはいえ、海外渡航はほぼ禁止され続け、出張も旅行も激減した。実際、10月末に発表された両社の半期決算資料では、JALの売上収益は1,948億円、ANAの売上高は2,918億円となり、前年と比較すると7割以上減少しているのがわかる。
JAL売上収益 | ANA売上高 | |
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2020年度第2四半期 | 7,489億円 | 1兆560億円 |
2021年度第2四半期 | 1,948億円 | 2,918億円 |
前年同期比(%) | -74.4% | -72.4% |
また、航空産業はとにかく利益率が悪い。国土交通省が平成24年に発表した「航空を取り巻く社会情勢等について」によると、航空会社の営業利益率の全体平均は4.8%しかなく、他の交通産業よりも劣る。JALとANAは多少ましなものの、前年同期から営業利益率を算出すれば、JALで約11%、ANAで約7.5%と、おおよそ売上の9割が費用であることがわかる。
さらにこれら費用のうち、半分以上が固定費とされる。航空業界に明るい森田宗一郎氏によれば、JALの毎月支払う固定費は300億円、ANAは600億円程度と想定される。多少金額に幅があったとしても、素人目に見ても航空機、巨大な空港、それを運営する多くの従業員など、月に数百億円単位のキャッシュが出て行くのは容易に想像できるだろう。
営業利益率が1割しかないのであれば、そのままの状況では倒産しかねない。事実、海外では、ヴァージン航空、タイ国際航空、ラタム航空、アビアンカ航空など、次々に経営破綻を起こしている。日本でも、10月にはLLCであるエアアジア・ジャパンが事業を停止。初の国内航空会社の事業撤退となり、波紋を広げている。
避けられぬリストラ
相次ぐ航空会社の破綻を前に、JALとANAの両社は資金調達に走っていた。JALは6月の株主総会で5000億円の資金調達を発表。ANAも劣後ローンを軸とし、メガバンクを中心に4000億円の融資を受ける。
これにより、両航空会社は当面の資金は確保した。しかし、だから安泰というわけには到底いかない。コロナがいつ収束するかは全くわからず、イギリスやフランスは再度ロックダウンするなど、ヨーロッパでは感染爆発が起こっている。これから気温が下がり、乾燥する季節になれば、日本でも感染者増加の恐れがある。
このような状況下で、たとえ渡航を徐々に再開しても、Go Toトラベルキャンペーンがあっても、とても以前のような航空需要が戻るとは考えられない。実際、IATA(国際航空運送協会)は、コロナウイルス発生前の旅客需要に戻るのは2024年との見込みを発表。世界の航空会社の2020年の最終赤字合計額は、9兆円にも上る見通しである。
当然、資金調達だけでは事業を回せるわけもなく、リストラが必要になる。ANAは一般従業員1万5000人の年収を3割カットし、冬のボーナスも支給しないことを決定した。これは記録の残る1962年以来初となる。さらに社会保険料も従来の3割負担から5割に引き上げる提案も行っている。
客室乗務員が最も不要?
だが正直、売上がここまで落ち、かつ回復の見込みが当分立たないのであれば、この程度の施策ではどうにもならないのは誰の目にも明らかだろう。日本は正社員の雇用保護が強固だが、ここに手を付けざるを得ないはずである。
その際、真っ先に解雇の対象となるのは客室乗務員(CA:キャビンアテンダント、フライトアテンダント)である可能性が最も高い。事実、海外の航空会社は容赦なく客室乗務員を解雇している。YouTubeで「CA解雇」などで検索してみると、かなり悲痛な状況であることがわかる。
客室乗務員(CA)はコロナ禍と最も相性の悪いスキルセット
しかし、これも已む無しといったところだ。なぜなら、客室乗務員というのは、持っているスキルがこのコロナ禍とは著しく相性が悪いからである。接客やおもてなしなど、とにかく対人スキルがメインなので、コロナ禍においては必要とされづらい。
逆にパイロットなどは完全な特殊スキルである。巨大な旅客機を飛ばせるのだから、それだけでも際立っているが、厳しい試験や検査もあり、なれる人は限られてくる。乱暴な推察だが、同じ飛行機ならば貨物機でも飛ばせなくはないだろう。飛行機がなくなることはない以上、彼らの需要は必ずあるはずだ。
また、同様に飛行機の整備も特別な技術と言える。飛行機整備士もまた、航空需要が減るにせよ、飛行機がなくならない限り必要とされる職種である。そして仮に飛行機の整備職はなくなっても、他の整備職への転向もできなくはないだろう。
客室乗務員(CA)はビジネススキルがないのが弱点
このように見てくると、最も需要が減りそうなのが客室乗務員なのである。実際、コロナ禍において国際線よりは需要が見込める国内線では、フライト時間も短く、客室乗務員のきめ細やかなサービスを受けることも少ない。客が支払う代金には、当然客室乗務員の費用も含まれている。このような事情もあり、客室乗務員は不要だという人もいる。
ホリエモンこと堀江貴文さんも、旅先で足止めを食らい、飛行機は完全自動化してCA不要にしてくれと嘆いていた。また、地上勤務(グランドスタッフ)へ転籍しようにも、そもそも旅客需要がないのであれば、事務系の従業員数は少なくて良いのである。
語学が堪能というのも正直武器にはならない。よほど特殊な言語や用途でもない限り、今は外国語を喋れる人材は数多くいる。そして単価も安いのだ。何より客室乗務員には汎用的なビジネススキルが乏しいのが難しい。
例えばPCスキル一つとっても、いわゆる一般的な事務系OLの人たちより熟達しているとは考えづらい。それ以外に営業や経理、マーケティングなどの知識にも明るくはないはずだ。さらに転職しようにも、転職先固有の業界知識が求められるが、これも持っていない。語学力を伴って転職先を探そうにも、採用企業側は、自分たちの業界知識と経験のある外資系社員を選ぶ方が妥当だ。
経験のない人材の採用はもとより難しい。一から教育するというのは企業にとってもコストだからだ。さらにコロナ禍でそこまでの余裕がある企業は限られている。さすがにコロナの影響が大きい今、対面のマナー講師もないだろう。
一般社員よりも高い給与もネック
平常時であれば、客室乗務員は一般的なOLよりは高給取りだろう。しかし、客室乗務員の給与体系は、フライトに応じて加算される乗務手当や滞在手当によって増加する仕組みである。よって、フライトが皆無に等しい今は、客室乗務員たちの収入も大変なことになっている。
実際、手取りで30万円程度あった給与が、フライトがなくなり15万円程度となってしまい、生活できないというケースはネットでも散見される。一般的に言っても、さすがに給料が半額となれば、家賃を支払うと、ほとんど手元にお金が残らない可能性が高い。そして高額の給与をもらっていれば、生活レベルも相応になってしまっているはずだ。
客室乗務員の出向先は…
これらの状況を踏まえ、JAL、ANAともに自社社員を別企業に出向させる意向を表明した。ANAはスーパーマーケットの成城石井、家電量販店のノジマなどに、JALは宅配便のヤマトホールディングスのほか、両社とも官公庁やKDDIへの出向を予定している。
しかし、この対応にも疑問符が付く。特にJALは自社の雇用は維持することを以前より表明していたが、結局これでは他社の社員として働いていることになる。需要がなくなったのだから致し方ないとはいえ、これは果たして客室乗務員なのだろうか?
出向先の企業を見回しても、客室乗務員の知識が活きる業種とは考えづらい。やはり前述のとおり、スキルのミスマッチから、高度なビジネススキルが求められる職場ではない場所に出向せざるを得ないのだろう。こうなると、やはり高給は見込みづらい。
現在は派遣社員も多くなったとはいえ、以前は客室乗務員と言えば女性の花形仕事の一つだった。今の時代には信じられないかもしれないが、30年以上前は応募資格に語学堪能に加え、容姿端麗という項目まであったのである。時代は移り変わったとはいえ、まさか生活にも困るとは、客室乗務員たちの悲痛な声も理解できる。
働ける場所があるだけで
しかし、よくよく考えれば、まだ働く場所があるだけ良いのかもしれない。この記事の掲載時点でも、コロナによる解雇は5万人を超えていた。10月に入っての計測ではさらに悪化し、コロナ解雇や雇い止めは6万5000人を超えている。
帝国データバンクによれば、コロナ関連倒産は10月末で666件。同じく10月末に発表された厚生労働省の労働力調査(基本集計)を見ると、完全失業者数は210万人となり、前年同月と比べると実に42万人も増えており、8カ月連続で増加している。
つまり、働き口さえない人たちが、数えきれないほど多くいるのが現状なのだ。新型コロナウイルスは、社会を大きく変えてしまった。残念ながら、客室乗務員はコロナ禍にはマッチしない職種となってしまっている。しかしこれを悔やんでもどうしようもない。過去とは潔く決別する勇気が必要だろう。
これから日本は冬を迎える。海外からの渡航者も徐々に受け入れて行く方針だが、同じく北半球のヨーロッパの惨状は先述のとおりだ。ダイアモンドプリンセス号の時のような失敗は許されない。インフルエンザの時期と相まって、感染者の激増を招けば、ベルギーのように医療崩壊すら懸念される。こうなれば打つ手もなくなってしまう。
今後まだ経済惨禍は続くだろう。客室乗務員だけでなく、明日は我が身の人たちもいるはずだ。多くの人にとって大変苦しい局面が続く。一人ひとりが自らの仕事のあり方や、日々の生活方針について、的確な判断を求められている。