GoToなど正気の沙汰ではない。GoTo禍という別の災害だ。

この国は本当に愚鈍の極みにいるのかもしれない。いきなりで恐縮だが、そう思わざるを得ない。当メディアでは当初よりGoToキャンペーンには否定的な見解を採ってきたが、鳴り物入りで始まったGoToトラベルもGoToイートも、結局、冬のコロナ第三波による感染者激増を受け、各地で中止が相次いでいる。

GoToなど正気の沙汰ではない

ほら見たことかなどと言う気は毛頭ない。そもそもGoToトラベルもGoToイートも、なぜコロナ禍の現状でやろうとするのか、さっぱりわからないキャンペーンだからだ。

人に会えば感染リスク、無症状者がいるのが新型コロナ

何も難しく考えなくてもわかるはずだ。もう日本国民なら誰もが知っているとおり、新型コロナウイルスは、感染者の飛沫で感染が拡がっていく。そして厄介なことに無症状者もいる。

ということは、どこの誰が感染しているかは検査をしない限り分からず、人に会うのは感染リスクと隣り合わせということだ。つまり、感染したくなければ、極力人に会わないのが正解となる。これも誰でもわかる話だろう。

なぜコロナ禍で観光業や飲食業の救済なのか?

そんなことを言ったら経済が回らない。もちろんそうだ。こう述べる人は確かに多い。

だが、一つ当たり前のことを問いたいのだ。「なぜこの新型コロナというウイルスの特性を皆知りながら、人の移動や飛沫が拡散する状況が生じやすい、観光や飲食を支援するキャンペーンをするのか?」と。これではコロナウイルスの拡大を国が支援しているようなものである。全くもって理解ができない。

こう言うと、それは最もダメージが大きい飲食や観光業界を救うためだという人もいる。しかしこれもまた理解に苦しむ。残念ながら、半年近く経済が大停滞した以上、全ての産業を均等に救うのは無理だ。帝国データバンクによれば、コロナウイルス関連倒産は11月の時点で700件を超え、総務省の最新データを見れば、完全失業者数は9月現在で210万人。前年同月に比べ、42万人も増えている。

この状況下で、コロナウイルスに対して最も弱い、観光や飲食業を救済する策に多くの税金をつぎ込んでも、コロナウイルスが収束しない限り、経済全体が活性化するとは考えられない。これは元2ちゃんねるの管理人であり、著名なひろゆき氏も言っている。

何も観光業や飲食業の人たちを見殺しにしろと言っているのではない。GoToキャンペーンの予算は、財務省の補正予算第一弾で1.7兆円近くある。それなら素直に現金給付や減税で良かったのではないか。

実際、このような緊急事態の際は、業界ごとの事業費の積み上げなど意味はなく、消費者に直接現金給付するか、減税しかないと、現菅内閣の内閣官房参与である高橋洋一氏もその著書「国家の怠慢」の中で述べている。

当たり前のことを当たり前にやらない日本

感染の拡大を防ぎ、なるべく収束につなげる。これは誰もが納得できる話であり、悲願でもあるだろう。しかし日本が採ったのは、感染の拡大につながる政策なのだ。国を挙げて、当たり前のことを当たり前にやらないのである。これは倒れるほどすごい話だ。

結果、11月に入り、悪いことが「当たり前に」起こり始まった。東京の感染者は500人を超え大阪も11月22日には490人が感染し、いずれも過去最多に。第三波の影響を最初に受けた北海道は、2週間以上も感染者が100人以上となり、医療体制が圧迫されている。さらに悪いことに、コロナの重傷者は最多の331人となり、第一波のピークを超えてしまった。もはや医療崩壊が懸念されるレベルである。

GoToキャンペーンの明らかな失敗

GoToキャンペーンの明らかな失敗

日本が誇るスーパーコンピューターの富岳のシミュレートでも、湿度が低いと飛沫がより拡散しやすく、換気もしづらい秋冬は特に注意が必要であると、データとして明らかになっていた。

しかし、政府はお構いなしにGoToトラベルを断行。結果は上述のとおり、感染者の激増を招いただけだった。GoToトラベルと感染者増加に因果関係はないという見解もある。しかし、日本医師会の中川会長は、「GoToトラベルが感染増のきっかけになったのは間違いない」と発表。前述のひろゆき氏も、GoToトラベルの感染者は調べていないから少ないだけと投稿し、話題となった。

仮にどちらが正しいかわからないにせよ、何もこの時期に人の移動や会食など、感染リスクが増大する以外ないキャンペーンを、国を挙げて実施する必要などあるのだろうか。

感染者の激増を受け、日本医師会の中川会長は「GoToトラベルで国民が完全に緩んでいる」と危惧を明らかにし、東京医師会の尾崎会長も「いまの状態を放っておくと医療崩壊に必ずつながる。一度止めたほうがいい」と中断を強く求めた。

モラルなき軽症者

コロナウイルスに感染しても、若年層は比較的軽症で済むことがわかってきている。しかし、「若いから、軽症だから、あまり気にせずとも良い」と考えるなら、正直、そのモラルを疑われるレベルだ。

当然ながら、軽症ないし無症状であれば、自分が感染者であるとは気付かない人も多いだろう。これらの人が無自覚に観光や飲食店に出かけ、多くの他人に接すれば、感染を拡げてしまう。

高齢者や持病を持つ人が感染すれば、重症化しやすいのもわかっている。仮にこのようなモラルなき軽症者や無症状者が発端で、重症者が増えたらどうするのか。

もはやコロナ患者を受け入れている病院では、病床の余裕がなくなってきている。通常の患者受け入れや手術は断らざるを得ない病院も増えてきた。医療従事者の皆さんは心身ともに疲労困憊しながらも、コロナと戦ってくれている。

それなのに、感染を拡げる可能性がある行為を平気でするなら、人命のために奮闘してくれている医療従事者の方たちへの負担も増やすことになる。これが理解できないなら、あまりに想像力が欠如しており、極めて愚かとしか言いようがない。

GoTo禍

状況はますます悪化している。しかし、そんな矢先、政府高官が放った言葉に耳を疑った。西村経済再生担当相は「今後の感染者は神のみぞ知る」と発言。一国の大臣が、である。

もちろん、未知のウイルスである以上、正確な予測が立てられないのは分かる。しかし少なくとも国の中枢にいる人材が、さらに、感染が拡がる施策をしておきながら「今後のことは何もわからない」と発言するとは、あまりに無責任ではないだろうか。この国の政治は一体どうなっているのだろう。

最も感染者の多い東京の対応もお粗末だ。小池都知事は、日々フリップを出すだけで、より具体的な対策は何も話してはくれない。挙句、東京都は重症者を厚労省の基準ではなく、独自基準でカウントし、重症者数を少なく見せる始末である。

結果として、国民の不安や批判はあまりに大きくなり、Twitter上では「#自民党に殺される」や「#小池百合子に殺される」といったハッシュタグが乱れ飛び、トレンド入りまでした。さらにANNの世論調査ではGoToトラベルの中止を求める意見が過半数に。ついに菅首相はGoToトラベルの一時停止を発表することになる。

そもそもGoToトラベルのメリットは本当にあったのだろうか。もちろん一時的な観光業の活況はあっただろう。しかし、ビジネスのセオリーとして、安さを求める客はリピーターにはならず、優良顧客にはならない。安売り期間が終われば、あっさりと来なくなる。そして安売りを求める客でごった返し、サービスの陳腐化を感じてしまうと、本来の良質な顧客も来なくなるのだ。これではそのビジネスの長期的な発展は望めない。

GoToイートも同様だ。感染者の激増を受け、忘年会や新年会といった年末年始の恒例行事もリスクと考える消費者が一気に増えた。東京商工リサーチの調査では、企業の9割はコロナの影響で忘年会・新年会は開催しないと回答している。

神奈川県は、早々にGoToイートの中断を発表。多くの人は素早い英断だと評している。首相は「静かなマスク会食」なるものを提唱したが、厚労省技術参与としてダイヤモンド・プリンセス号の現場対策にも関わった、感染症のプロである沖縄県立中部病院の高山氏は「そんなものはザル」と一刀両断。そのような対策では、コロナウイルスは防ぎようがないことを明言した。こちらも結果として、農水省がGoToイートの見直しを発表する運びとなってしまった。

一体、この国は何をやっているのだろう?

GoToに参加した事業者も消費者も振り回され、多くの時間と手間、そして税金を投入したにもかかわらず、感染者は大幅に増加し、結局は途中で頓挫。果たしてやる意味はあったのだろうか?この混乱ぶりを見ると、もはやGoToなるものが別の禍い(わざわい)のように思えてくる。GoToキャンペーンなどという復興策ではなく、「GoTo禍」ともいうべき、コロナとは別の災害なのではないだろうか。

GoToの中止が本格化した際の対応も残念極まりない。西村大臣は「GoToトラベルの対応は知事に任せる」と言い、小池都知事は「国の判断を仰ぎたい」と言う。もはや責任のなすり付け合いにしか見えない。国の大臣と首都の長が、国民の危機に際して、リーダーシップを執ることもなく、お互いで責任転嫁をしているのだ。

この惨状でオリンピック?

この惨状でオリンピック?

驚きはまだ続く。この惨状のさなか、オリンピックの開催論議まで出ていた。正気なのだろうか。来年のオリンピック開催時期までに、コロナが収束するとは到底思えない。

欧米の惨状はもはや言うまでもないだろう。感染者、重症者、死者ともに最悪の水準であり、ヨーロッパでは多くの国が再度ロックダウンに踏み切っている。本気で諸外国から観客が来日できると思っているのだろうか。

徐々に海外からの渡航者も受け入れるようになった。しかし、外国からやってくる人たちにも感染者が続々と発見されている。中にはコロナの陰性証明を受けていながら実際は感染していた人までいた。国は、渡航者がコロナに感染していた場合を想定し、空港到着後は公共機関での移動は自粛するよう求めているが、実際にはお構いなしに、入国者の鉄道やバスなどの利用が相次いでいる。自宅が空港から遠いこともあるのだろう。しかしこれでは、ウイルスを国外から輸入し、拡散しているようなものである。

このような状況を見て、11月の連休前にネットには「五輪なんかやってる場合か」という声が溢れかえった。当然だろう。前述の日本医師会中川会長は「我慢の三連休を」と国民に懇願していた。

国内外の選手にせよ、来年のオリンピックを目指し、このコロナ禍で十分な練習と準備ができることはあり得ない。国内感染者の激増に加え、日本より感染者が圧倒的に多い諸外国からも観客を招き、会場も開催都市も密になる中で、一大イベントとなるオリンピックを行う。そんなことを本気で考えているのだろうか?オリンピックなど到底開催できるわけがないのは、誰の目にも明らかだろう。

癒着と愚策

なぜこうも愚策が続くのだろうか。とどのつまり、それは業界と政治の癒着が原因ではないだろうか。GoToトラベルの管轄は国交省、GoToイートの管轄は農水省だ。多くの嘆願や要望が、担当各省庁や政治家に寄せられたのだろう。もちろん多くのカネと利権もそこには動く。

オリンピックは、その経済効果を見越して様々なインフラや設備にも巨額の投資をしている。さらに放映権や広告等、ここにも莫大なカネが動く。アメリカは、無観客ならば放映料を支払わないと言っている。多くの企業と政治の利権がオリンピックに紐づいているのだ。そう簡単に止められないということだろう。

しかし、ここまでパンデミックのリスクが拡大しているのに、科学的な根拠や対策指針もないまま、経済を回すことに注力するというのは正気の沙汰ではない。実際、東洋経済誌によると、イギリスの「エコノミスト」誌が、「政府のコロナ対策が科学的か」を24か国2万5000人の科学者に問い、その調査結果をまとめた記事を掲載したが、最も科学的と科学者が評価するのはニュージーランド、2位は中国、日本は17位となり、アジアで最低となってしまった。死者数もドイツと変わりはない。再度当メディアの記事を引用するが、日本のコロナ対策は、アジアでは最低レベルなのである。

また、理解に苦しむとはいえ、GoToを始めとしたGDPの4割にも上る経済刺激策を採ってきたものの、その結果は芳しくない。ロシアやポーランドを除く、人口3000万人以上の欧州5カ国で、日本より経済ダメージが大きいのはイギリスとスペインだけである。つまり、日本のコロナ対策は費用対効果が著しく悪い。経済合理性を無視した愚策だったことは明らかである。

医療従事者に手厚い補助を

医療従事者に手厚い補助を

これは私見で恐縮だが、どうしても支援する業種を決めると言うならば、医療従事者ではいけないのだろうか。介護などの重症化リスクの高い高齢者を相手にするエッセンシャルワーカーでも良い。とにかくコロナ禍の最前線で、人命を預かることを使命とし、奮闘している方たちを守らずしてどうするのだろう。

医療に莫大な資金を投入をすれば、できることはもっと多くなり、そして活路も見えてくるのではないか。今はPCR検査も検査体制側の人員の問題から、そう簡単にはできないとされている。また精度も完璧ではない。しかしそれならば、そこにこそ資金を投入し、検査体制の拡充や機材の高性能化を図ることはできないのだろうか。それが難しいなら、不足して使い回されているN95マスクなどの医療資材を提供することはできないのか。

日本病院会、全日本病院協会と日本医療法人協会の発表によると、コロナの影響で全国の3分の2の病院が赤字に転落し、コロナ患者を受け入れている病院では8割が赤字、東京に至っては9割が赤字である。コロナ対応に疲れ、現場を退く医療関係者も多い。自らをリスクにさらしても、多くの患者を救おうとしている方たちだ。わけの分からない施策に税金をつぎ込むよりも、彼らの手当を多くしても良いのではないか。人命の最後の砦として戦ってくれている方々に、手厚い支援がないというのはあまりにひどい話である。

有能な政治家と国民の連携、そして圧倒的なITの利活用により、コロナを見事に封じ込めている台湾は、もう7ヶ月もコロナの感染は確認されていない。マスク着用は義務化されたが、水際対策にも抜かりはなく、もはや通常の日常を取り戻している。

台湾と日本では人口が違う。何も台湾同様、感染者をゼロにしろとは言わない。しかし、まずは医療体制をしっかり整え、いたずらに感染者が増えないような対策を徹底するべきだろう。そしてそのうえで経済を回していく。それが一番着実なのではないだろうか。癒着と愚策に溺れていては、世界からも見放される国になる。最後となってしまったが、医療機関の皆さんに精一杯の感謝を表しつつ、結びとしたい。