コロナで日本のレストランと飲食店は、全て閉店・倒産する

コロナウイルスの影響で、レストランや飲食店の閉店、倒産が止まらない。東京商工リサーチのデータによると、6月の倒産件数は今年最多の780件に。また、帝国データバンクによれば、コロナ禍において当初はホテル・旅館の倒産が先行したが、6月には飲食店の倒産数が上回った。

テイクアウトやデリバリーを始め、奮闘しているレストランや飲食店は多い。国民も応援していることだろう。しかし残酷なことに、それでも日本の飲食業はほぼ全て「生き残れない」のが現実だ。今回は、なぜ日本のレストランや飲食店が閉店・倒産の憂き目に会うのかを考察する。

夜の街とほぼ同様のリスク

現在、小池都知事を筆頭に「夜の街」をコロナ感染リスクの温床とする論調がある。もちろんホストクラブやキャバクラなどは、接客スタイル、換気の悪さ、人の密集度、どれを取ってもリスクしかない。安全対策は徹底しづらく、シャンパンの回し飲みまでしていては、自らコロナに感染しに行くようなものである。

しかしコロナウイルスは、ホストクラブやキャバクラ「だけ」で感染するのではない。実際、毎日のように報道される東京都の感染者の内訳は、ほぼ半数が「感染経路不明」である。

クラスターが発生した病院や介護施設を別にすれば、学校やオフィスなどでの感染、そして市中感染も疑われ始まった。そんな中、目につくのは「会食」での感染だ。

これは当たり前の話である。ホストクラブやキャバクラほどではなくとも、人が集まり、酒を酌み交わし、同じ料理を食べ、普段より大きな声で喋って盛り上がる。いわゆる飛沫感染が起こりやすい条件全てが揃ってしまうのがレストランや飲食店である。

特に居酒屋はその筆頭に当たる。大手居酒屋チェーンのワタミは65店舗の閉店を発表。会長である渡辺氏は、全店舗の3割に当たる150店はなくなる覚悟だという。

飲食業はとにかく儲からない

別の根本的な問題もある。飲食業は「とにかく儲からない」のである。結論から言うと、営業利益は1割にも満たないところが多いはずだ。

ざっくり説明すると、飲食店の場合、一般的な売上から原材料費を引いて算出されるのがいわゆる粗利である。そこから店舗の賃料、従業員の給料、水道光熱費等々の経費を引いていく。最終的に残る金額が営業利益であり、これは実際1割程度でも相当上手く運営していると言えるレベルで、それに満たないレストランや飲食店があまりに多いのが実情である。

他の業種と比べると、これはかなり少ない数字だ。ただ、レストランや飲食店が企業努力していないのだと言い切るのは酷である。日本は30年にわたって経済復興ができておらず、ずっとデフレである。その過程で、飲食業は価格競争に陥った。とにかく安く、大量にさばかなければ、成り立たない業種となってしまっているのだ。

このような構造的な問題もあり、大半のレストランや飲食店の経営は自転車操業である。開業1年で3割が閉店し、3年で7割が閉店すると言われるのが飲食業だ。多くの人は、「しばらくの間休業しても、政府の補償もあれば乗り切れるのでは」と考えているようだが、とんでもない。レストランや飲食店の財務基盤はあまりに弱いのである。

売上ゼロでも固定費はかかる

売上ゼロでも固定費はかかる

そして、開店しなくても家賃や従業員への給与という固定費はかかり続ける。とりわけ家賃が重い。特に都心の良い立地ならば、店舗の賃料はあまりに高額で、たとえ給付金が出たとしても、家賃の支払いだけで消えてしまうというレストランや飲食店も多い。家賃交渉をしてみろと言う評論家もいるが、不動産の貸主もまた自分の生活がある。そうそう交渉には応じてくれないのが実情だ。

また、目の超えた消費者に訴えるため、人気店などは様々な内装にも凝っている。これら内装費や設備のローンも重くのしかかり、当然そう簡単に支払いの延滞はできない。これもまた固定費である。

メディアでは飲食店アルバイトの方が解雇されてしまったケースも報道された。心が痛む話だが、家賃やローンといった大きな固定費は削れない以上、店主側からすると、従業員を解雇したくなくても、削れるのがもはや人件費しかなく、辞めてもらうしかないというのが本音だろう。

前述のとおり、少ない利益で自転車操業をしているのが大多数の飲食業なのだ。実際のところ、2~3カ月売上がゼロなら、閉店や倒産に追い込まれるというのがレストランや飲食店の真実である。日本がコロナ禍に翻弄されて約4ヶ月。断言しても良いが、これからもっと多くのレストランや飲食店が閉店、倒産ラッシュを迎える。

デリバリーやテイクアウトは売上に貢献しない

冒頭でも触れたが、デリバリーやテイクアウトに乗り出す飲食店も多い。だがこれは開店できないゆえの苦肉の策なのである。

レストランや飲食店にとって、テイクアウトやデリバリーは正直儲からないのだ。レストランや飲食店は、多くのお客様に来店してもらい、賑やかな会話とともに盛り上がって、多くの飲み物と料理を注文してもらうのが一番良い。特に「水商売」の言葉よろしく、酒類・飲料の利幅が大きいのだ。

しかし、テイクアウトやデリバリーで飲料を頼む消費者は多くない。しかも、実店舗ならば、お客様が盛り上がるにつれ注文も増えるものだが、テイクアウトやデリバリーではそもそも事前に注文数は決まっている。お通し代やチャージ料なども取れない。

何よりも、テイクアウトやデリバリーを効率的に行うなら、調理場さえあれば良く、そもそも大きな固定費となる店舗自体が不要なのだ。

ゴーストレストラン

実際、これに目を付け、実店舗は持たず、テイクアウトやデリバリーに特化し、ビジネスを拡大している「ゴーストレストラン」という形態がある。アメリカでは、年内中にも飲食店の売上の半分以上が、こういった実店舗以外の形態によるものに移り変わると言われている。日本でも、月商500万円を売り上げるゴーストキッチンズの事例も出てきた。

新たなモデルは、レストランや飲食店をこれから作る人たちには貴重な参考となるだろう。しかし、既存のレストランや飲食店は、ほぼ全て「すでに店舗がある」のだ。つまり、テイクアウトやデリバリーがさほど儲からなくても、高い賃料や内装費、設備費のローンといった固定費はかかり続けるのである。これでは財務状況は一向に良くなるわけもない。

自粛解除がされ、ようやく経済が動き始まった。しかし、飲食店には客席をシールドで区分したり、ソーシャルディスタンス確保のため、満席を避ける等の対策も求められている。テラスや窓を開けた状態での営業なら良いともされるが、そもそもテラスも窓もないレストランや飲食店も多い。

ただでさえ薄利な飲食業において、コロナ対策用の設備を別途用意し、客席を半減させろと言われても、安定して商売を続けることなどできるわけがない。さらにコロナウイルスの感染者は日に日に増加している。

飲食業に従事する人も激減する

飲食業は「ブラック」という印象が強くなってしまっている。給料も安く、仕事はきつい。求人を出しても応募が来ない、従業員が定着しないという話もよく聞く。

残念だが、今回のコロナ禍でなおさらこの傾向は強くなるだろう。財務基盤が弱い以上、従業員の生活の安定は担保しづらい。そしてお客様との距離も近く、様々な人が来る。感染リスクが高い職業だ。さらに、今回のような災害があった場合、飲食業に従事する人は、汎用的なビジネススキルもないので、他の業種に転職するのも難しい。

こうなると、飲食業に就きたいと思う人、また志そうとする人は、今まで以上に減少するのは間違いない。

飲食文化の衰退は避けるべき

飲食文化の衰退は避けるべき

見てきたように、レストランや飲食店は相当厳しい状況に追い込まれている。利益が出しづらく、財務基盤も弱いとなれば、このコロナ禍に耐える体力はなく、閉店や倒産は避けられない。

今儲かっているのはマクドナルドを筆頭に、ファーストフードばかりである。マクドナルドのテイクアウトは絶好調だし、ファーストフードは料理を食べれば客もすぐ席を立つため、コロナの感染リスクも低い。

もちろんファーストフードチェーンの企業努力は素晴らしい。巨大企業なので、財務基盤も小規模なレストランや飲食店とは比べ物にならないほど安定している。

しかし、実店舗はファーストフードしか存在せず、他のレストランや飲食店が全て消滅してしまっては、貴重な日本の食文化も失われてしまう。熟練の料理人が丹精に心を込めて作り上げる一品は、本当に価値あるもので、人の心も動かすものだ。

また、上質な料理とともに会話をし、親睦を深めるのは、ビジネスでもプライベートでも意味あることである。会食は、食事だけでなく、貴重な時間と経験を提供してくれているのだ。単に食欲を満たすだけならファーストフードでも良いが、大切なひとときを過ごしたいなら、相応の料理や空間が必要なのである。

今、日本のレストランや飲食店は、最大の苦境に立たされている。そして、閉店や倒産は避けられない。しかし、外国に行けばよく分かるが、日本ほど衛生的で美味しい食事がリーズナブルに食べられる国はない。本来、日本の飲食文化は卓越したものなのだ。

難しいことは百も承知だが、レストランや飲食店は、何とかこの苦境を乗り切り、日本の素晴らしい飲食文化を継承して欲しいと願って止まない。